当科の股関節症治療システム

  1. 目次
  2. Ⅰ:当科における「PSTRエクササイズ」の基本概念
  3. Ⅱ:当科のリハビリ治療システムについて
  4. Ⅲ:股関節・膝関節の診療の流れについて

当科における「PSTRエクササイズ」の基本概念

  1. 「PSTRエクササイズ」は、手術しない治療を推奨するプログラムではありません!「関節面からの痛み」と「関節面外からの痛み(主に関節周囲靭帯)」を区別して患者さんの病態を細かく分析した上で、最もよいプログラムを組み立てていく「オーダーメイド医療です!」
  2. Ⅰ:関節の痛みはどのようにして起こるのでしょうか?
  3. 図1
    正常な股関節
  4. 関節軟骨には神経は存在していません。股関節のクッションの役割を果たしている軟骨が磨り減っていき痛みが出現するのが変形性股関節症と言われています。
  5. 図2:変形性股関節症の進展(二次性)
    変形性股関節症の進展(二次性)
  6. 日本で最も多いのは先天性股関節脱臼や股関節の屋根部分(臼蓋:図1の寛骨臼に相当)のかぶりが不十分な臼蓋形成不全が長年放置された後に軟骨が擦り減り痛みが出現する二次性の変形性股関節症です(図2)。日本でもありますが欧米に多いものとして図1のように解剖学的異常(臼蓋形成不全は、ない)はないにもかかわらず股関節のクッションの役割を果たしている軟骨が磨り減っていく一次性のものがあります。これには肥満や先天性の軟骨異常が原因のことがあります。
    変形性股関節症・臼蓋形成不全の2500例におけるPSTRエクササイズの治療経験から股関節の痛みに下記の2種類があることが考察されました。
  7. 1:関節面からの痛み(関節面の損傷が神経に届いており治療は主に手術になります。)
  8. 2:関節面外からの痛み(関節面の損傷が神経に届いておらず★痛みは主に関節包周囲靭帯の捻れから来ています。骨盤の捻れが原因でありこの骨盤の捻れを調整し靭帯をゆるめるのが「PSTRエクササイズ」です。)
  9. ★医学的に証明されたわけではありませんが、臨床研究データから考察された見解です。詳細は、福岡和白病院ホームページ「当科の股関節治療システムについて」の「医療従事者の方へ」を参照してください。
    • 股関節周囲の4つの靭帯
    • 図3:
      大谷内 輝夫著:「股関節の94%に効いた!奇跡の自力療法」、マキノ出版
  10. 手術には、進行期・末期に行われるTHA(Total Hip Arthroplasty:人工股関節置換術)とTHAの耐久年数からして年齢が若すぎると判断される45歳以下の前期で行われる寛骨臼回転骨切り術があります。
  11. 1:45歳代以下の場合:寛骨臼回転骨切り術
  12. 人工股関節置換術が20年の耐久性を持つようになりましたが、まだそれ以上の耐久性は保証されていません。よって、45歳代以下の患者さんでは軟骨がまだレントゲン上正常な内に自分の骨を使用した再建術で痛みを取る方法を勧めます(図4)。
  13. 図4
    臼蓋回転骨切り術のしくみ
  14. (「PSTRエクササイズ」による手術の回避・延期について)
    進行期・末期に行う人工関節置換術の適応例に比べて「PSTRエクササイズ」による改善度は著明に高いです(JOA・HHSスコアーが40点以上改善した多くの例を経験しています)。多くの改善例における臼蓋形成不全の痛みの原因は、「関節面外からの痛み(主に靭帯性の痛み)」であると思われますが図1の関節唇断裂の可能性もあります。臼蓋形成不全に関らず関節唇断裂の痛みについては、PSTRエクササイズの筋力バランス法により症状改善する例を多く経験しています。いいかえれば「関節面からの痛み」はないかわずかであり痛みは「関節面外からの痛み(主に靭帯性の痛み)」である多くの例に手術が勧められている可能性が考えられます。
  15. ★JOAスコア(日本整形外科学会股関節機能判定基準;正常100点)、HHSスコア(Harris Hip Score:股関節国際評価基準;正常100点)。障害度が高い程点数は低くなります。
    JOAスコア・HHSスコアともに同じ患者さんについてはほぼ同数の点数になります。
  16. 2:60歳以上場合:THA(人工股関節置換術)
  17. (60歳以下でも軟骨が磨り減った場合)
    人工関節置換術の適応になります。人工股関節は、金属・ポリエチレンの改良、セラミックの導入で20年間の耐久性を有するようになりそれ以上の耐久性が期待されています。従来の「10年しかもたない」といわれていた頃と違い最近では人工股関節手術後に軽いスポーツも勧めています(ゴルフ・自転車・グランドゴルフ)。
  18. 図4
    人工股関節手術のしくみ
  19. (「PSTRエクササイズ」による手術の回避・延期について)
    国際論文において、リハビリ治療の適応ではなく手術の適応とされているHHSスコア(正常100点)60点未満の群の分析を行いました。その結果、HHSスコアは治療開始後3ヵ月後と1年後の片側例群・両側例群において著明な改善が見られました(P<0.0001〜P<0.001)。この結果は、この分野で世界初の報告になります。(国際論文投稿中のため掲載できません。)
    • 正常股関節
      正常股関節
    • 変形性股関節症(進行期)
      変形性股関節症(進行期)
  20. 図6
  21. HHS 60点未満群は、図6の左のように関節裂隙が消失(軟骨が消失)している例がほとんどです。この中でHHSスコア30点〜40点台から85点前後まで改善した多くの例を経験しました。これらの多くの例ではまだ関節の損傷が神経に達しておらず痛みの大部分は骨盤の前傾からくる「下肢のみかけ上の脚長差」によって生じる靭帯の捻れから来るものであろうということが考察されました。いいかえれば「関節面からの痛み」はないかわずかであり痛みは「関節面外からの痛み(主に靭帯性の痛み)」である多くの例に手術が勧められている可能性が考えられます。
  22. ★当科初診前に他院で手術と言われた例の内訳は、下記の通りでした。
  23. 1:関節面からの痛み(関節面の損傷が神経に届いており治療は主に手術になります。)15〜20%
  24. 2:関節面外からの痛み(関節面の損傷が神経に届いておらず痛みは主に関節包周囲靭帯の捻れから来ている。「PSTRエクササイズ」の適応)。80〜85%
  25. ★鎮痛剤の常用について
  26. 骨盤前傾・「みかけ上の脚長差」を放置して鎮痛剤を常用して活動性を上げると軟骨・軟骨下骨のすり減りの増強(関節の損傷が神経に到達し「関節面からの痛み」が出現します。)・腰痛の出現を招きます。また、関節拘縮(硬くなって可動域が減少します)が増強して図7の開脚テストが30°以下になり「PSTRエクササイズ」の効果が得られなくなる可能性が高くなります!
    • 図7:開脚テスト
    • 開脚テスト
  27. ★日常生活のコントロールについて(最重要)
  28. 靭帯の捻れによる緊張をゆるめて痛みを軽減させますが、軟骨は再生しません。よって、自分で「治った」と勘違いして20kg近いものを抱えたり、ジムでスクワットその他捻れと衝撃を与える運動をすると軟骨・軟骨下骨を擦り減らせて関節の損傷が神経に到達し「関節面からの痛み」が出現し手術が必要になります。
  29. 1:ものを抱える時は、5kg以下を原則とする。
    2:どうしようもない時は、5kg〜10kgを15分間以内とする。
    3:10kg以上は、禁忌です。
  30. ★「関節面からの痛み」が、出現した場合:
  31. 基本的には手術です。この場合、靭帯性の痛みとの混合型になります。よって、術前に3ヵ月間くらいをかけて骨盤前傾・「みかけ上の脚長差」を取り除いて靭帯性の痛みを取り除いて手術に臨むようにします。これにより良好な術後成績が得られます。靭帯性の痛みを残したまま手術を受けると術後、靭帯性の痛みが持続する可能性が高くなります。
  32. <股関節の手術を考えるべきケース:「PSTRエクササイズ」の効果がでない>
  33. 1:PSTRエクササイズを続けても股関節開脚角度(図7)が30°以上にならない
    2:杖をついての歩行が300メートル以下が続く
    3:夜間痛が続く
    4:1〜3に加えて腰痛がでる
  34. 特に4の場合は、手術を急ぐ必要があります。腰痛(腰仙関節障害)が強くなってから手術をすると腰痛が持続して歩行障害になることがあります。
  35. ★下記疾患は、「PSTRエクササイズ」の適応にはなりません。
    関節リウマチ・骨壊死・ペルテス病・感染性疾患など
  36. ★「PSTRエクササイズ」の内容の詳細は、「股関節痛の94%に効いた!奇跡の自力療法、整形外科医が効果を実証!大谷内 輝夫著、マキノ出版、2016年1月15日発売」に掲載されています。

当科のリハビリ治療システムについて

  1. Ⅰ:股関節・膝治療の基本方針
  2. 初診時に「関節面からの痛み」の原因になる「骨粗鬆症が原因で起こる脆弱性骨折」や「大腿骨頭壊死」を除外診断するために原則として全員にMRI検査を行います。
  3. ① 手術の回避・延期を最優先します。
    「PSTRエクササイズ」による運動療法を行います。
  4. ② どうしても手術が必要なケースでは仕事・子育て・介護・その他の生活事情に支障のない時期に手術を延期した上でよい手術結果が得られるように術前リハビリとして「PSTRエクササイズ」を行います。
  5. ★ リハビリメニューは、患者さん個々の歩行バランスの分析に応じて決定しますので一人ひとりメニューは、異なります。
  6. ★ リハビリ科で患者さんの日常生活指導を行います。
  7. Ⅱ:早急の手術を勧める場合について
  8. 変形性股関節症・変形性膝関節症が進行していくと腰椎に影響を及ぼし腰痛が出現・増悪していくことがあります。腰痛が強くなったらたとえ手術で股関節や膝の痛みが軽くなっても残った腰痛のために歩行障害は改善されないときがあります。この場合は、3ヶ月間の術前リハビリの後、早急に手術することを勧めます。
  9. ★ 腰痛が出現し始めの軽いときは、手術により股関節痛や膝痛が軽快すると同時に腰痛も軽快することが多いです。
  10. ★ 寛骨臼回転骨切り術では、人工股関節手術の予防的役割がありますのでより痛みが軽い段階で手術を決定することがあります。
  11. Ⅲ:術前リハビリ・術後リハビリ
  12. 1の計画的手術の延期、2の腰痛が出現した場合の早急の手術に際してはPSTRエクササイズによる術前・術後リハビリを行い「入院期間の短縮」「術後早期の杖無し歩行」を目指します。
  13. ★ 術前リハビリは、全員に行いますが、術後リハビリについては当院で手術を受けられた患者さんのみに行います。他院で手術を受けられる場合、当院で術後リハビリを行うと責任問題の混乱を招きますので避けるべきと思います。(人工股関節置換術の術後脱臼は、術後半年以内の脱臼は手術に原因があることが多く再手術を要することがあります。術後半年以降の脱臼は、患者さんの理解不足や不注意が原因のことが多いです。)

股関節・膝関節の診療の流れについて

  1. 原則として下記の流れで診療を進めていきますのでよろしくお願いします。(患者さんの症状により主治医判断で下記のスケジュールと異なる流れになることもあります。)
  2. Ⅰ:当日の検査、診療
  3. 診察の後、主治医より別紙「股関節治療の手引き」、「膝関節治療の手引き」を配布し概略を説明した後、これに沿って診断を進めます。
  4. 当日は、診察とレントゲンによる診断によりリハビリ治療の方向性を決めます。
  5. 主治医の説明の後、リハビリ室にて今後の日程予約をして帰宅となります。
  6. Ⅱ:1回目のリハビリ受診日(約2週間後)
  7. MRIの検査により、細かいリハビリメニューが決定されます。主治医のMRI説明とリハビリ担当理学療法士による診察・治療があります。
  8. これから後の3ヵ月は、リハビリ担当理学療法士による治療期間となります。(一般的には1回/2~4週の外来通院で自宅リハビリを指導する形になります。場合によってはその度に通院の頻度を調整します。また、日常生活動作の指導もあります。)
  9. ★ 遠方の方の場合には、適宜上記1・2のスケジュールを変更して対応します
  10. 3ヵ月でリハビリ指導は終了し主治医の診察があります。その後は自宅でのリハビリを継続していただきます。1回/4~6ヵ月主治医の外来診察になります。
  11. ★ 鎮痛剤希望の場合は、申し出てください。ただし、鎮痛剤に依存すると変形性股関節症・変形性関節症を進行させる場合があります。常用はしないでどうしようもない時のみに限定してください。
  12. 福岡和白病院
    リウマチ・関節症センター長
    林 和生
  13. ≪PSTRエクササイズの継続システムについて≫
  14. 林医師受診後、リハビリ科にて身体評価・自主訓練指導を行い、【3ヶ月】毎日、自宅で運動を行って頂きます。(リハビリ科の外来診療は状態に応じて、3ヶ月間訓練メニューなどの確認を行います。)
  15. “リハビリ科の初診から3ヶ月後”、リハビリ科にて、初回同様の身体評価をさせて頂きます。“3ヶ月目の評価”から『2週間後』に、林医師の外来受診を受けて頂きます。
    【この2週間は“骨盤調整訓練”は休止して頂きます。(他の運動に関しては継続して行って下さい)】
  16. 『2週間後』の林医師の外来受診にて、骨盤の歪みをチェックして頂きます。
  17. 【骨盤の歪みが調整されている場合】
    “骨盤調整訓練”は休止したまま、他の運動を継続して行って頂きます。
    【骨盤の歪みがある場合】
    林医師の外来受診後。

    リハビリ科の外来診療予約をして頂く。

    新たに、“自主訓練の指導”をさせて頂き、“再度約3ヶ月間”自宅での運動を継続して頂きます。
  18. “リハビリ科の初診療より約6ヶ月目”に再度、簡易的な評価を、リハビリ科でさせて頂きます。その後、林医師の外来受診を受けて頂きます。
  19. 【6ヶ月目に骨盤の歪みが調整されている場合】
    “骨盤調整訓練”を休止し、他の運動を行って頂きます。
    【6ヶ月目に骨盤の歪みがある場合】
    “骨盤調整訓練”も継続し、他の運動も行って頂きます。
  20. “リハビリ科の初診療より、約1年目”に再度、リハビリ科で簡易的な評価をさせて頂き、その後、林医師の外来受診を受けて頂き、症状が安定していれば、受診・診療、終了の運びとなります。