変形性股関節症患者の機能を改善させる新しいホームエクササイズの画期的効果について

福岡和白病院 リウマチ・関節症センター
林 和生
ゆうき指圧整体院
大谷内 輝夫

  1. The 2015 OARSI World Congress on Osteoarthritis(世界変形性関節症会議) , in Seattle, Washington, USA; April 30 - May 3, 2015.
  2. 目的:我々は変形性股関節症患者の手術の回避・延期を目的としたエクササイズプログラムの開発に取り組んできた。変形性股関節症が進行していくと内転拘縮を起こしかつ骨盤は前傾していることが多い。我々は内転拘縮のために生じる冠状面での骨盤の傾きを防止する目的でCKC(closed kinetic chain)としての外転筋訓練を開発した(図1)。さらに、変形性股関節症の進行を防止する目的で骨盤調整訓練(pelvic realignment exerecise)(図2)と8の字ゆらしエクササイズ(図3)を開発した。我々は、CKC外転筋エクササイズの前に骨盤調整訓練と8の字ゆらしを行うことで、変形性股関節の機能障害を改善しうると考えた。
  3. CKC  外転筋訓練
    図1 CKC 外転筋訓練
  4. OKC(open kinetic chain)としての患側下肢を上下させる股関節外転筋力増強訓練を行うと骨盤が冠状面で傾くことが問題である。骨盤が傾くことにより外転筋が作動してない可能性があると考えて冠状面での骨盤の傾きを防止する目的でCKC(closed kinetic chain)としての外転筋訓練を開発した。
    痛む方の足を上にして側臥位になる。上の足を腰幅の高さまで上げ前方5〜10°の位置まで移動させ枕にのせる。かかとを前に突き出し15秒間静止する。
    20回/日行う。
  5. 補足説明
  6. 変形性股関節症の進行例では内転拘縮が起こり(股関節が外に開かなくなる)下肢を上下しても骨盤が傾き外転筋としての中殿筋は作動していない。
  7. 骨盤調整訓練
    図2 骨盤調整訓練
  8. 骨盤が前傾すると、筋肉の走行が解剖学的走行でなくなる可能性がある。我々は、骨盤のアラインメント不良を調整しないで筋力増強訓練を行うと変形性股関節症が増悪する可能性があると考えて骨盤調整訓練(pelvic realignment exerecise)を開発した。
    見かけ上の脚長差を調整する。下肢の短い方を上にして側臥位になる。
    上の下肢を斜め前方30°〜45°に出し足を床につける。上になっている肩を足が浮かない程度に後方に倒しこの姿勢を120秒保つ。
  9. 8の字ゆらし運動
    図3 8の字ゆらし運動
  10. 患側の減少した関節可動域(ROM)を拡大させ生理的可動域に近づける8の字ゆらしエクササイズを開発した。限局した荷重分散を改善させ、より生理的荷重分散に近づけてOAの増悪を防止するためである。
    イスに座り、股関節の開きが悪い方の大腿の後面に両手を回して支え膝で横・逆横、縦・逆縦の4パターンで8の字を描く。4パターン各15回を1〜3回/日行なう。
  11. 方法:2011年4月-2014年1月に来院した1077名の変形性股関節症の患者に本プログラムによる治療を行った。治療の適応は、日本整形外科学会診療ガイドライン、The American College of Rheumatology criteria for the classification and reporting of osteoarthritis of the hipに基づき3ヵ月以上の股関節痛を訴えていた患者とした。統計解析の除外基準は、過去における下肢のすべての手術、たとえ1回でも鎮痛剤投与を受けた者、カイロプラクティックやその他の股関節セラピーを受けた者、本プログラムによる治療指導を過去に受けたことのある者とした。はじめの12週間は、2週間に1回理学療法士によりエクササイズプログラムの指導を受け、残りの日は自宅でのホームエクササイズを毎日行った。12週間後は、ホームエクササイズを自宅で毎日続けた。
    統計解析できた286例を片側例群(GroupⅠ、対側股関節痛がない)と両側例群(GroupⅡ、対側股関節痛がある)に分けた。GroupⅡでは、股関節痛のより強い側を対象とした。GroupIとGroupⅡの性別、年齢、X線におけるK/L/分類(Kellgren/Lawrence grade)別の内訳は表1に示す。K/L grade1においては、全例CE角(a Center-Edge angle)は20°未満であった。GroupⅠとGroupⅡについて治療開始時と3ヵ月後では、 HHS(Harris Hip Score), HHS 疼痛スコアー, NRS(Numerical Rating Scale:疼痛数値評価スケール), ROM(Range of motion:関節可動域), 開脚角度(Patrick testにおける開脚角度), 最大外転筋力 (Hand Held Dynamometerによる評価)を比較した。治療開始時と1年後では、HHS(Harris Hip Score), HHS 疼痛スコアー,を比較した。全症例におい治療開始時と1年後のK/L gradeの変化は見られなかった。
    尚、対象となった全症例において鎮痛剤剤投与は行われなかった。我々は、全てのデーターを電子カルテによってのみ取得し、その後の統計分析は九州臨床研究支援センターに依頼した。統計解析手法は、1標本 t-検定を使用した。P<0.05を有意とした。
  12. 表1 患者の性別、年齢、K/L分類の内訳
  13. K/L 分類(N数)
    女性(%)年齢(歳)K/L 1K/L 2K/L 3K/L 4
    GroupⅠ(N=154)133(86.4)56.5±14.357334222
    GroupⅡ(N=132)124(93.9)54.3±12.951293418
  14. GroupⅠ: 片側例(対側の股関節痛がない)
    GroupⅡ: 両側例(対側の股関節痛がある)
    ★K/L1の患者は、CE角(a Center-Edge angle)は20°以下であった。
  15. 結果:
    治療開始時と3ヵ月後の比較:HHS, HHS 疼痛スコアー , NRS, ROM, 開脚角度, 最大外転筋力は、GroupⅠ・GroupⅡともに有意差が認められた(表2)。ROMについてはGroupIでは外転、内転、外旋、内旋でGroupIIでは屈曲、外転、内旋で有意差が認められた(表3)。HHSについては、K/Lgrade1,2,3,では有意差が認められたがK/Lgrade4では有意差は認められなかった。開脚角度では30°未満ではGroupIで有意差は認められずGroupIIで有意差が認められた。30°以上ではGroupI・GroupIIともに有意差が認められた(表4)。
    治療開始時と1年後の比較:、GroupⅠ・GroupⅡにおいてHHS(Harris Hip Score), HHS 疼痛スコアー,の有意差が認められた(表2)。
  16. 表2 開始時、3ヵ月後、1年後におけるHHS,HHS疼痛スコアー、NRS、開脚角度、外転筋力の比較
  17. 開始時3ヵ月後P値1年後P値
    HHSGroup
    74.29
    ±
    17.76
    81.20
    ±
    14.95(N=154)
    <0.000187.08
    ±
    15.73(N=38)
    0.003
    Group
    65.52
    ±
    17.32
    76.80
    ±
    18.65(N=132)
    <0.000182.06
    ±
    16.39(N=33)
    <0.0001
    HHS 疼痛スコアーGroup
    26.10
    ±
    14.43
    31.70
    ±
    11.41(N=154)
    <0.000136.26
    ±
    10.92(N=38)
    0.004
    Group
    19.62
    ±
    13.03
    28.79
    ±
    13.295(N=132)
    <0.000131.70
    ±
    12.86(N=33)
    <0.0001
    NRSGroup
    4.32
    ±
    2.22
    3.21
    ±
    2.22(N=150)
    <0.0001
    Group
    4.88
    ±
    1.98
    3.61
    ±
    2.17(N=130)
    <0.0001
    開脚角度Group
    51.44
    ±
    17.51
    57.30
    ±
    17.82(N=111)
    <0.0001
    Group
    51.67
    ±
    17.80
    57.75
    ±
    15.26(N=102)
    <0.0001
    外転筋力(Nm)Group
    41.70
    ±
    18.05
    48.16
    ±
    20.46(N=132)
    <0.001
    Group
    40.56
    ±
    16.82
    47.36
    ±
    19.87(N=118)
    <0.0001
  18. ★開脚角度:Patrick's testにおける股関節の開き角度
    ★Hand Held Dynamometerが筋力評価に使用された。
  19. JOA Score(日本整形外科学会 評価基準:総合点数) (英文抄録にはない。)
  20. JOA Score
  21. JOA Pain Score(日本整形外科学会 評価基準:疼痛点数) (英文抄録にはない。)
  22. JOA Pain Score
  23. 表3 開始時と3ヵ月後における関節可動域の比較
  24. 開始時3ヵ月後P値
    屈曲GroupⅠ109.38±18.61110.49±18.16(N=154)0.16
    GroupⅡ107.50±18.60110.65±19.65(N=132)<0.001
    伸展GroupⅠ10.93±7.4511.69±6.85(N=154)0.12
    GroupⅡ10.46±7.2511.38±7.29(N=132)0.14
    外転GroupⅠ26.99±10.3828.64±9.78(N=154)0.009
    GroupⅡ25.08±10.4427.77±11.22(N=132)0.001
    内転GroupⅠ10.20±4.9511.15±4.97(N=154)0.04
    GroupⅡ9.92±4.9010.73±4.41(N=132)0.1
    外旋GroupⅠ34.41±11.8336.45±12.65(N=154)0.006
    GroupⅡ35.86±12.1537.30±12.29(N=132)0.07
    内旋GroupⅠ28.78±16.2130.46±17.02(N=154)0.04
    GroupⅡ28.57±16.1632.09±16.16(N=132)<0.0001
  25. 表4 K/L分類別における開始時と3ヵ月後のHHSの比較
  26. 開始時3ヵ月後P値
    K/L grade 1GroupⅠ81.58±17.4787.93±11.086(N=57)0.003
    GroupⅡ71.73±15.3784.22±14.34(N=51)<0.0001
    K/L grade 2GroupⅠ75.28±17.1984.97±12.21(N=33)0.004
    GroupⅡ64.59±17.5480.52±15.37(N=29)<0.0001
    K/L grade 3GroupⅠ67.64±15.3174.05±14.45(N=42)0.03
    GroupⅡ60.13±17.2169.50±17.90(N-=34)0.002
    K/L grade 4GroupⅠ66.60±16.5069.15±17.47(N=22)0.26
    GroupⅡ55.25±17.1158.25±21.62(N-=18)0.6
  27. ★開始時と3ヵ月後におけるK/L gradeの変化はなかった.
  28. 表5 開脚角度の程度に応じたHHSの開始時、3ヵ月後における比較
  29. 開始時3ヵ月後P値
    開脚角度 <30°GroupⅠ76.67±18.9782.67±12.72(N=15)0.18
    GroupⅡ67.13±17.3274.40±20.74(N=15)0.008
    開脚角度 30°-<50°GroupⅠ67.19±18.1373.11±17.52(N=37)0.04
    GroupⅡ56.81±18.8570.06±18.36(N=31)0.003
    開脚角度 <50°GroupⅠ76.17±17.2984.55±13.77(N=58)<0.001
    GroupⅡ70.85±14.4381.95±14.55(N=55)<0.0001
  30. ★開脚角度:Patrick's testにおける股関節の開き角度
  31. 結論:今回の後ろ向き研究で本プログラムが変形性股関節症患者の機能を改善させる可能性が確認された。今後、我々はこの新しいエクササイズプログラムの有効性を検証するための前向きコントロール研究を行う予定である。